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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)2575号 判決

神戸市東灘区深江本町三丁目四番一八号

原告

村上特殊工事有限会社

右代表者代表取締役

浅田陽一

右訴訟代理人弁護士

吉田之計

澁谷眞

大阪市北区山崎町一番五号

被告

株式会社日企設計

右代表者代表取締役

玉岡順石

右訴訟代理人弁護士

俵正市

重宗次郎

大阪市東住吉区杭全二丁目五番一二号

被告

杭全重機株式会社

右代表者代表取締役

齋藤安弘

右訴訟代理人弁護士

須田政勝

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、各自金二四〇〇万円及びこれに対する平成八年三月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

原告は、本件当時、原告代表者浅田陽一(以下「浅田」という。)が村上特殊工事の名称で行っていたビル修復工事の事業(以下「村上特殊工事」という。)をその後に法人化して営業を承継したものであるが、本件は、原告が、被告らが村上特殊工事の著作物である別紙一の一ないし五の図面の一部(別紙一の一及び一の二。以下「原告図面」という。)を別紙二の一ないし四の図面(以下「本件図面」という。)のとおり複製して使用したことにより、村上特殊工事が受注することになっていた建物修復工事の受注を妨害され、その結果、右工事の受注により得べかりし利益を喪失したとして、損害賠償を請求している事案である。

二  前提的事実(後掲第三の一掲記の各証拠により認められる。)

1  平成七年四月ころ、村上特殊工事は、森川建設株式会社(以下「森川建設」という。)の紹介により、仲介者を通じて、神戸青果食品協同組合(以下「青果組合」という。)から、阪神大震災による液状化現象で傾斜した同組合会館ビル(以下「青果組合会館ビル」という。)の傾斜修復工事(以下「本件工事」という。)についての見積もりの依頼を受け、同年六月五日、村上特殊工事で作成した図面を添えて、見積金額を一億〇六五〇万二〇〇〇円とする見積書(以下「原告見積書」という。)を仲介者に提出した。

2  同年六月中旬ころ、被告株式会社日企設計(以下「被告日企設計」という。)は、右仲介者より村上特殊工事の見積金額の妥当性についての検討を依頼され、原告見積書とともに、青果組合会館ビルの傾斜状況等を記載した図面を渡された。そこで、被告日企設計は、被告杭全重機株式会社(以下「被告杭全重機」という。)営業部長の肩書で営業活動を行っていた川村志郎(以下「川村」という。)に、青果組合会館ビルの傾斜修復工事の見積もりを依頼し、川村は、被告杭全重機作成名義の見積金額八二五〇万円とする見積書(以下「杭全見積書」という。)を提出した。その後、仲介者から原告側に対する値引き交渉の依頼を受けた被告日企設計は、原告側に見積金額の減額の申し入れをしたが、結局、金額的な妥結に至らなかった。

3  同年九月三日、被告らは、青果組合及び同会館ビル入居者らに対して、設計管理者を被告日企設計、施工者を被告杭全重機として、青果組合会館ビルの傾斜修復工事についての説明会(以下「本件説明会」という。)を開催し、その際、本件図面を添付した工事計画書を示し、右説明会の参加者から被告らと青果組合との修復工事請負契約の締結の承認を得ようとした。

4  原告は、平成八年二月二三日、村上特殊工事を法人化して設立された。

三  争点

1  原告図面は著作物といえるか。

2  被告らが本件説明会において本件図面を使用したことが、村上特殊工事の著作権を侵害したといえるか。

また、被告杭全重機は損害賠償責任を負うか。被告杭全重機が本件工事に関与していない場合に、被告杭全重機の損害賠償責任の有無。

3  被告らの本件図面の使用と、村上特殊工事が被ったとする損害の因果関係の有無。

四  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

【原告の主張】

震災によって生じたビルの傾斜は、地盤が液状化し、その支持杭の一部が破損したことによるものであったが、そうしたビルの傾斜を修復する工法は、地盤改良工事をした上で傾斜ビルをジャッキアップする工法、新たな支持杭を地中に打設した上で傾斜ビルをジャッキアップする工法、地中に耐圧盤を築造した上で傾斜ビルをジャッキアップする工法があり得るが、前二者は膨大なコストが必要となり、また、最後のものについては液状化した地盤中に耐圧盤を築造しても、耐圧盤自体が沈下してしまうという問題点があった。

そこで村上特殊工事は、地盤の支持層から破損個所までの既存支持杭を耐圧盤の支持杭として再利用することを考案した。

そして、村上特殊工事は、青果組合からの見積もり依頼時に既に受注し、完成直前であった青果組合会館ビルに隣接する丸中ビルの傾斜修復工事において、同ビルの既設支持杭の内部を写真撮影した結果、すべて地表から約三メートルのところまでで破損しており、破損部から地盤支持層までは支持杭が再利用できることを確認していた。

原告図面は、この経験に基づいて最も経済的かつ合理的な傾斜修復工事絶景図面を作成したものであり、村上特殊工事の職務上の感覚と技術を駆使して独白に作成された著作物である学術的な性質を有する図面(著作権法一〇条一項六号)に該当する。

【被告らの主張】

(一) 被告日企設計の主張

原告図面は、著作権が認められるべき創作的な精神的労作の結果によるものではなく、同種業界においては一般に公知の工法を表現したものにすぎないから、著作物に該当しない。

(二) 被告杭全重機の主張

著作権法上保護される著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものである必要があり、学術的な性質を有する図面というためには、本件でいえば建築工学上の技術思想を創作的に表現したことが必要であると解される。しかし、被告らが本件説明会で使用した本件図面は、単に建物が傾斜していることを示す図面や、本件建物の建築確認申請図面から写したと思われる本件建物の基礎伏図や耐圧盤工事の簡単な図面しかなく、到底技術思想を創作的に表現した図面ということはできない。

2  争点2について

【原告の主張】

(一) 被告日企設計は、原告図面を自らが設計した図面としてそのまま他の業者に使用させる権原はないにもかかわらず、そのことを知りながら、村上特殊工事が本件工事の施工業者として受注することを妨害し、他の施工業者に受注させて利益を得ようとして、原告図面を複製したものである。

(二) 被告杭全重機は、本件図面が原告図面を被告日企設計が複製したものであることを本件説明会の直後に浅田らから指摘されているにもかかわらず、本件工事の施工業者として青果組合と請負契約を締結して施工することにより、被告日企設計の違法行為に加担して村上特殊工事の受注を妨害したものであり、民法七一九条二項の「幇助」に基当する。

仮に、被告杭全重機が本件工事に関与していないとしても、被告杭全重機は、川村が「杭全重機営業部長」という肩書で営業活動をし、受注した工事を杭全重機名義で施工することを承諾し、その対価を得ていたのであるから、名義利用者である川村の事業執行による不法行為について、民法七一五条に基づく損害賠償責任を負う。

【被告らの主張】

(一) 被告日企設計の主張

本件図面は、公知の工法につき説明を容易にするため便宜的に使用したものにすぎず、著作権侵害に当たらない。

(二) 被告杭全重機の主張

(1) 本件工事は、平成七年九月初旬ころ、株式会社萩原都市建設研究所が青果組合との間で工事請負契約を締結し、被告日企設計の工事管理の下に施工したものであり、被告杭全重機は、本件工事を受注、施工していない。被告杭全重機が民法七一五条に基づく損害賠償責任を負うとの主張は争う。

(2) また、被告杭全重機は、被告日企設計から本件図面のうち、別紙目録二の一、二の図面しか受け取っておらず、右図面が村上特殊工事の作成に係るものとは知らなかった。また、これらの図面はビルの傾きのアウトラインを説明するだけであるから、工事をする場合には再調査が必要である。そして、工事費の見積もりをするために単なる建物の傾斜状況について説明を受けることにのみ使用したことが著作権の侵害に当たるということはできない。

3  争点3について

【原告の主張】

村上特殊工事は、被告らの共同不法行為により、青果組合会館ビルの修復工事の受注を妨害され、受注金額を八〇〇〇万円としても、少なくとも金二四〇〇万円の得べかりし利益を失った。

【被告らの主張】

(一) 被告日企設計の主張

被告日企設計は、仲介者から原告見積書を示され、「この見積もりが適正なものか否か、一度検討してほしい。」との申し入れを受け、被告杭全重機営業部長の肩書で活動をしていた川村に本件工事の見積もりを依頼したものである。そして、被告日企設計が原告見積書より二〇〇〇万円ほど見積金額の低い杭全見積書を仲介者に提出したところ、仲介者より、村上特殊工事と青果組合との間に元請で入る予定であった森川建設に対して値引き交渉をするように依頼があったので、二度にわたり森川建設に見積金額の減額交渉をしたが、「近隣の請負工事価格との関係もあり値引きはできない。」との回答がされたので、被告杭全重機が受注する方向で話が進んだものである。

したがって、村上特殊工事が本件工事の請負契約受注に至らなかったのは、村上特殊工事の見積金額が不当に高額であったことによるものであり、本件図面の複製と本件工事の請負契約との間には何ら関係がない。

(二) 被告杭全重機の主張

被告杭全重機が、本件説明会の後に、村上特殊工事が本件図面を作成したことを知ったとしても、そのことと村上特殊工事が工事を受注できなかったことや利益を得られなかったということとの間には全く因果関係がない。

第三  当裁判所の判断

一  甲第一号証ないし第四号証、第九号証、第一〇号証の一、二平第一三、第一四号証、丙第一号証の一、二、第二、第三号証、証人川村志郎の証言、原告代表者浅田陽一、被告日企設計代表者玉岡順石及び被告杭全重機代表者齋藤安弘の各供述及び弁論の全趣旨を総合すれば、概要、次の各事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

1  浅田は、もともと建築基礎工事の仕事を行っていたが、阪神大震災による地盤の液状化現象によって傾斜した自己所有のビル及び浅田の妹の所有するビルについて、掘削をした地盤中にコンクリートで耐圧盤を設けてジャッキで建物の基礎ごと持ち上げて傾斜を修正するという工法を採用して施工し、平成七年二月末ころ完成したことをきっかけに、傾斜ビルの修復を専門とした営業を村上特殊工事の名称で開始し、平成八年二月には右事業を法人化して原告を設立した。

なお、基礎にパイル杭が打ち込まれているような大型建築物について、建物の基礎部分を掘削し、耐圧盤を設けて建物の基礎ごとジャッキで持ち上げて建物の傾斜を修正するという工法は、昭和三八年ころから多く行われており、特に村上特殊工事独自のものではなかった。現に阪神大震災で傾斜した建物についても、詳細な部分については業者ごとに異なるとしても、右のような工法によって傾斜修復工事を施工した例が多数存在した。

2  村上特殊工事は、平成七年四月七日ころ、青果粗合会館ビルに隣接する丸中ビルの傾斜修復工事を受注し、パイル杭の破損状況を調査した。同ビルは地盤が埋立地である神戸市の深江浜にあり、基礎のPC杭の長さはおよそ三〇メートル程度であるが、地上から約一・二メートルのところまでで破損しており、それより深度が深い部分では破損が生じていないことを確認した。

3(一)  右の丸中ビル傾斜修復工事の施工中であった平成七年四月二〇日ころ、村上特殊工事は、森川建設の紹介により、仲介者を介して、青果組合会館ビルの傾斜修復工事の見積もりを依頼された。同ビルは鉄筋五階建てで、一階には店舗、二階にはテナントが入り、三階から五階まではマンションであった。村上特殊工事は、青果組合ビル会館を測量し平また、仲介者から受領した建築確認申請図面を参考にして図面を作成し、同年六月五日、見積金額を一億〇六五〇万二〇〇〇円とする原告見積書を、作成した図面を添えて仲介者に提出した。

(二)  このとき村上特殊工事が作成した図面は、別紙目録一の一ないし五記載のとおりであり、そのうち、別紙一の一には、右側は建物の垂直断面図に傾斜を記入した概略測量図が、左側には基礎部分の平面測量図が平左下には「測量結果・参考資料」として測量結果等が簡略に記載され、別紙目録一の二には、「施工図」として、上から順に「基礎伏図」、「位置図」、「施工範囲」、「耐圧盤工事」と題して、左側に各平面図の概略が、右側に位置関係や耐圧盤の大きさ等が簡略に記載されている。

右図面のうち、別紙目録一の一の右側記載の「測量図<断面>」には、青果組合会館ビルの基礎にあるパイル杭の破損した部分が予測として記入されているが、これはパイル杭の地表近くの部分に波線が記載され、左下の「測量結果・参考資料」の欄には「パイル杭・折れ(予想レベル)」として、「基礎下(GL-1500)~1000隣接丸中ビル資料あり」と記載されているのみで、その深度、破損状況の具体的内容については記載されていない。これらの記載は、パイル杭はパイル径の五倍までの深さで折れるという業界における定説に基づいて村上特殊工事が予測として記入したものである。その他、原告図面には、特殊な用語や作図方法は一切使用されておらず、また、施工に関する特殊技術についても一切記載されていない。

4  被告日企設計は、平成七年六月中旬ころ、仲介者から原告見積書を示され、右見積書の見積金額の妥当性についての検討の依頼を受け、同時に本件図面を受け取った。本件図面のうち、別紙目録二の一は別紙目録一の一の右側図面を、別紙目録二の二は別紙目録一の一の左側図面及び左下の「測量結果・参考資料」と題する記載を、別紙目録二の三は別紙目録一の二の上から三つの図面及びそれに対応する右側の「基礎伏図」、「位置図」、「施工範囲」と題する記載を、また、別紙目録二の四は別紙目録一の二の最下段に記載された図面及びこれに対応する「耐圧盤工事」と題する記載を、それぞれ写真複製したものであり、被告日企設計が仲介者より渡されたこれらの図面には、別紙目録一の一及び同一の二のそれぞれ右下に記載されている図面の名称、縮尺、工事名、村上特殊工事・神戸営業所の名称は記載されていなかった。

被告日企設計は、被告杭全重機の営業部長の肩書で営業活動をしていた川村に対し、仲介者から受け取った本件図面を交付して、青果組合ビルの修復工事の見積もりを依頼した。なお、川村は、被告杭全重機の従業員ではなく、建築の基礎関係の仕事をタイシ産業の名称で自営業として行っていたが、被告杭全重機の承諾の下で、同社営業部長の肩書で営業活動を行って工事を受注し、被告杭全重機から手数料を受け取るという活動も行っていた。

川村は、青果会館ビルの現地に赴いて傾斜等を測量し、また、青果組合会館ビルの建築確認申請図面を確認するなどして、傾斜修復工事の見積金額を八二五〇万円とする平成七年七月二七日付の被告杭全重機名義の見積書を作成して提出した(但し、この見積書には同会館ビルの防水工事、外壁塗装工事に関する見積もりも含まれており、総額は九八五〇万円とされていた。)。被告日企設計は、右見積書を仲介者に提出したところ、仲介者より、村上特殊工事の元請となる予定であった森川建設に対して値引き交渉をするように依頼を受けた。そこで、被告日企設計は、森川建設と請負代金額について交渉をしたが、森川建設からは二〇〇万円から三〇〇万円くらいの値引きならば検討できるがそれ以上は難しいとの回答があり、金額的な合意には至らず、結局、杭全見積書の見積金額で、被告杭全重機を受注先として本件工事の発注をする方向で話がまとまった。

5  被告日企設計及び川村は、本件図面を添付し、工事の概略を記載した「青果組合会館傾斜修正工事計画」と題する施工計画書を作成し、平成七年九月三日、青果組合会館ビルの入居者らに対して、本件工事の計画についての説明会を開催し、その際に、右施工計画書を配布した。右説明会会場には、浅田及び森川建設代表者も臨席しており、説明会終了時に浅田より被告日企設計及び川村に対し、村上特殊工事作成の図面を無断で複製して使用したことについて抗議がされた。そして、同日、右説明会に出席していた川村及び被告日企設計従業員と浅田らの間で話し合いがもたれたが、何らの合意にも至らなかった。

その後、浅田と川村は、仲介者のもとで話し合い、村上特殊工事が下請けという形で一部本件工事を施工するという案も提示されたが、合意には至らなかった。

6  一方、川村は、右の説明会で原告から抗議があったことについて被告杭全重機代表者と協議して、被告杭全重機が本件工事を受注することをやめ、平成七年九月一〇日ころ、川村は、元請を株式会社萩原都市建設研究所として、青果組合から本件修復工事を受注し、川村が個人で営業していたタイシ産業を下請として本件工事を施工し、平成七年一二月二〇日ころ完成した。なお、被告日企設計は、前記施工計画書には施工管理会社として名前は載せているものの、本件工事の契約当事者とはならず、設計管理料も受領しなかった。

二  争点1(原告図面の著作物性)について

1  原告図面は、前記一3(二)、4のとおり、青果協同組合ビルの傾斜の概略図及び建物の基礎部分の概略図面であり、村上特殊工事が建物の外観、測量結果及び建築確認申請図面に基づいて作成したものである。このような図面は、当業界における関係者が共通した認識を持ち得るように、共通の法則に従って表現されているのが通常であり、その表現方法そのものに独創性を見出す余地は少なく、原告図面も、建築物に関する通常の断面図及び平面図であって、その表現方法に独創性、創作性があるものと認めることはできない。特に原告図面は、現に存在する建物の傾斜状態の測量図及び基礎部分に関する図面であって、前記一3(一)のとおり、一、二階部分が店舗、テナント用、三階から五階までが居住用である一般的なビルに関するもので、建物自体に著作物性が認められないものであるのみならず、右建物を測量して図面に表現しようとすれば、原告図面に記載されている直線、補助線と大同小異のものにならざるを得ず、現に存在する建物を二次元の図面に記載する場合に不可避の構成を採っているものといわざるを得ない。そして、前記一1のとおり、村上特殊工事が本件工事で施工を予定していたジャッキで建物の基礎ごと持ち上げて傾斜を修復するという工法自体は何ら特殊なものではなく、仮にその施工方法の詳細な点について何らかのノウハウが存在するとしても、それらが原告図面に記載されているわけではない。また、原告図面のうち目録一の一の図面にはパイル杭の破損位置についての予測が記載されているが、これは、前記一3(二)のとおり、パイル杭は径の五倍以内の深さで破損するという建築業界の常識に基づいて村上特殊工事が概略の破損位置を予測して記載したものにすぎず、その具体的な破損位置や破損状態が記載されているものではない。

そうすると、原告図面が何らかの学術的意味を含んでいるものということはできないのであって、原告図面を著作権法一〇条一項六号にいう「学術的な性質を有する図面の著作物」と認めることはできないものといわざるを得ない。

2  以上のとおり、原告図面を著作物と認めることができない以上、原告の著作物の複製権侵害に基づく請求は、いずれも理由がない。

三  争点3について

念のために、争点3についても判断する。

前記一で認定した事実を総合すれば、村上特殊工事は、原告図面を提出した時点では、いまだ青果組合との間で本件工事の正式な契約に至っていたと認めることはできない。

この点、原告は、平成七年四月二〇日あるいは同年六月五日の時点で本件工事を村上特殊工事が受注することについて何らかの合意があったかのような主張をし、甲第九号証(原告代表者の陳述書)及び原告代表者浅田陽一の供述にはこれに沿う部分もあるが、右のほかに、かかる合意の存在を窺わせる証拠は存しないばかりか、通常、大型の工事請負契約において、見積書が提出される前の段階、すなわち、工事請負代金額が示される前の段階で当該請負工事の受注に関して具体的な合意が成立しているとは考え難く、また、その後、村上特殊工事が提示した見積金額について、青果組合側から減額の申し入れがあり、その減額交渉が成立しなかったという本件における経緯からしても、村上特殊工業と青果組合との間に何らかの合意が成立していたものと認めることはできないといわざるを得ない。そして、前記一で認定した事実によれば、原告が本件工事を受注するに至らなかったのは、もっぱら、村上特殊工業の提示した請負工事代金額について青果組合との間で合意が得られなかったことによるものであると認められる。

他方、前記一で認定した事実によれば、被告らが仲介人から受け取ったのは本件図面のみであって、また右図面を複製したことが認められるのは、本件説明会での説明資料用にとどまり、他に被告らが原告作成に係る本件工事の設計図を複製したと認めるに足りる証拠はない。そして、前記のとおり、本件図面には何ら村上特殊工事のノウハウが記載されているわけでもないから、本件図面が本件工事の受注・施行に当たって格別の寄与を果たすものということもできない。

そうすると、被告らが原告図面を無断で複製して使用したことと、原告が本訴において損害として主張している村上特殊工事が本件工事を受注していた場合の得べかりし利益の喪失との間に、因果関係が存在すると認めることができない。

したがって、右の点から見ても、原告の請求は理由がない。

四  よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。

(平成一〇年九月二二日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 水上周)

目録一の一

〈省略〉

目録一の二

〈省略〉

目録一の三

〈省略〉

目録一の四

〈省略〉

目録一の五

〈省略〉

目録二の一

〈省略〉

目録二の二

〈省略〉

目録二の三

〈省略〉

目録二の四

〈省略〉

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